もう一つ私が大切にしている事

出会いは子育てを通してだった。とある子育てサポートグループを通して音楽療法士の友人が出来た。彼女は身体に障がいを持つ子ども達や、発達障がいを持つ子ども達に音楽を通して様々なサポートをする。セッションに立ち合わせてもらったことをきっかけに、彼女の想いと私の想いが交差した。

音楽が届きにくい人に音楽を届けたい

私は若い頃から常々障がいのある人たちや病気の人たちと音楽で関わっていきたいと思っていた。けれどどんな風に関わったら良いのか全くわからなかった。そして友人は常々障がいを持つ人やその家族、普段コンサートになかなか出かけられない人に音楽を届けたい。けれど自分は演奏家ではない、どうしたら良いかと悩んでいた。私たちは足りない部分をお互いに補えることに気がついた。そこからは彼女が色々とプロデュースしてくれ、いろんなコンサートをした。

報酬をいただく大切さ

本物の音楽を聴かせたいねん、と言う彼女の情熱に引っ張られ、いろんなコンサートをした。障害のある子供達を寝かせても良い環境で、畳の部屋に電子ピアノを持ち込んでコンサートもした。大きなデイセンターで、車椅子も入れるようにしたコンサーもした。必ず彼女のセッションとペアでコンサートをした。彼女がピアノを教えている、少し生きづらさを抱えている子ども達が私の伴奏をするコンサートもした。高齢者のためのコンサートも、病院のコンサートもした。コンサートからも彼女のセッションからも本当に色んなことを学んだ。どんな会場でも必ずドレスを着てねと彼女は言う。会場が畳の部屋であれどこどであれ、コンサートは子供達やご家族にとってはホールで聴くコンサートと同じなのだ。私達はこんな風に仕事をするんだよと知ってもらう大事な機会なのだ。そして聴いてくれる子ども達にも、その日はちょっとおしゃれをして出ておいでと彼女は言うらしい。当日は車椅子に飾りをつけた子や、髪留めをキラキラにした子が来てくれる。ご家族の嬉しそうな顔を見るのも私の楽しみの一つである。

でも彼女は絶対に私にボランティアをさせないのだ。プロの演奏を聴くにはお金がかかることを教えていくことも演奏を聴くのと同じくらい大事だと彼女は言う。音楽療法士や芸術家は未だ、ボランティアで当然と言われることが多く、仕事と認識されにくい職業である。彼女はこれから先の若い音楽療法士達のために、その立場をしっかり根付かせよう、と仕事に見合った報酬をいただくという『当たり前のこと』を世間に教える立場を貫き通している。勇気がいることだ。本当は私も彼女もどこにだってホイホイ行ってセッションも演奏もしたいのだ。でもそれは間違っているのだ。障がいを持つ子ども達をケアする介護士や看護師にタダ働きはさせない。我々の仕事だって同じなのだ。長い長い年月をかけて努力で手に入れた特殊技術。震災や緊急の場合、家族のため、又その他特別な場合を除いて、その技術を安売りしてはいけないのだ。我々がここに行き着くまでに、気が遠くなるほどの時間と努力、そして親が有難くも投資してくれた莫大なお金がかかっているのだ。そして誰でもが到達できるわけではないのだ。

又、障がいを持っている方へのコンサートなのだから、優遇されて当たり前という考えを抱く方も中にはいる。それを根付かせないためにも、仕事をした人には報酬を払うという当たり前をきちんと教えなければいけないと彼女はいう。厳しいように聞こえるが、仕事に見合った報酬を給料と言うのだ。ほんの気持ちだけでええねん、彼女は言う。私もそう思う。

夢は会場を車椅子でいっぱいにすること

病院でコンサートをする時は、いつも元気の良い曲を選ぶことにしている。けれどそれでも号泣される患者さんがいる。その涙を胸にしっかり受け止めて、そして笑顔もしっかり受け止めて、私は音楽を届ける役割を続けようと思う。病院でコンサートをするときは、ベッドごと降りてきてもいいようなコンサート。ロビーがベッドでいっぱいになるコンサート。想像するだけでワクワクする。

車椅子で過ごしている重度の障がいを持ったお子さんたちのコンサートでは、最初は表情がわかりづらくて、友人について回ってどんな時に喜びどんな時嫌がるのかなどたくさん勉強させてもらった。でも一つだけ私にわかることがある。音を出した瞬間空気がサッと変わるのだ。ああ、子供達きいてくれてるんだと思うと、胸がいっぱいになるし背筋が伸びる。私が一番大事にしていることは、心に届く音楽を奏でること。だから私はアウトリーチをとても大切にしたいと思っている。場所によって配達の仕方は変わってくるが、畳のコンサートも学校の体育館も病院のロビーも老人施設も、私にとってはどれもとても大切なコンサートで、夢は車椅子でいっぱいの会場で、彼女とセッションとコンサートのペアイベントをいつかすること。会場が音で包まれる瞬間、空気が変わる瞬間が私は大好きだ。

彼女と話していると話題は尽きない。コンサートホールの椅子を全部取っ払ってバリアフリーにして車椅子で埋め尽くしたいね!耳の不自由な方のためにコンサートをするにはどうすれば良いか。音を『体験』文字通り身体で感じるコンサートってどうすればいいか。彼女のアイデアは止まることを知らない。私達の夢はコンサートホールを車椅子で埋め尽くすこと、なのである。